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「猫と癌と諸々と」に学ぶ、愛猫のために選ぶ“闘わない”がん治療と緩和ケアの真実

愛猫の癌宣告を受け、眠れない夜を過ごしながら、ブログ『猫と癌と諸々と』に辿り着いたあなたへ。

「治療しない」という選択は、決して「見殺し」ではありません。それは、愛猫に残された時間を苦痛なく、自宅で穏やかに過ごさせるための「積極的緩和ケア」という、もう一つの立派な治療方針です。

この記事では、往診専門の獣医師として多くの看取りに立ち会ってきた私が、ブログ『猫と癌と諸々と』が多くの共感を呼ぶ理由と、医学的に正しい「積極的緩和ケア」の具体的な方法を解説します。罪悪感を手放し、残された時間を愛だけで満たすためのガイドとしてお役立てください。


この記事を書いた人

👩‍⚕️

高橋 恵(たかはし めぐみ)

獣医師 / ペット終活アドバイザー

臨床歴15年。往診専門の動物病院を開業し、500頭以上のペットの自宅看取りをサポート。「治療の正解は医学書の中ではなく、飼い主さんとペットの絆の中にあります」を信条に、老齢動物の緩和ケアと飼い主の心のケアに従事。


目次

なぜ「猫と癌と諸々と」は多くの飼い主の心を救うのか?

「治療をしないなんて、飼い主失格でしょうか?」

診察室でそう涙される飼い主さんは少なくありません。あなたも今、獣医師から提案された抗がん剤治療や手術と、愛猫の年齢や体力を天秤にかけ、答えの出ない問いに苦しんでいるのではないでしょうか。

そんな時、多くの飼い主さんが救いを求めて辿り着くのが、mikaさんが綴るブログ『猫と癌と諸々と』です。このブログには、標準治療を選ばず、自然治癒力やQOL(生活の質)を重視して愛猫と向き合った日々の記録がありのままに記されています。

ブログ『猫と癌と諸々と』がこれほどまでに支持される理由は、「癌と闘わない」という選択が、決して「諦め」ではなく、愛猫の「その子らしさ」を守り抜くための強い覚悟に基づいているからです。mikaさんのブログが示す「自然な姿で旅立つことの尊さ」は、高度医療が進む現代において、「延命こそが正義」という無言の圧力に疲弊した飼い主さんの心に、深い安らぎを与えてくれます。

もしあなたが今、「治療しない」という選択肢に罪悪感を抱いているなら、どうか自分を責めないでください。ブログ『猫と癌と諸々と』に集う多くの人々が証明しているように、愛猫の幸せは、点滴の管や病院のケージの中だけにあるのではありません。大好きな自宅で、大好きなあなたに撫でられながら過ごす時間こそが、何にも代えがたい「最良の医療」になり得るのです。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

迷いがあるうちは、無理に治療を決めず、まずは「愛猫が今、何をしている時が一番幸せそうか」を観察してください。
医学的な数値や余命ばかりに気を取られ、目の前の愛猫の「快・不快」のサインを見逃してしまうことが多いからです。日向ぼっこをしている時の穏やかな表情こそが、あなたが守るべきQOL(生活の質)の答えです。

「治療しない」は「何もしない」ではない。「積極的緩和ケア」という選択

ここからは、獣医師として医学的な視点からお話しします。「治療しない」と決めた後、多くの飼い主さんが陥る誤解があります。それは、「治療しない=一切の医療介入をしない(何もしない)」と思い込んでしまうことです。

しかし、標準治療(抗がん剤や手術)を行わないことと、緩和ケアを行うことは、全く別の次元の話です。

標準治療と緩和ケアの違い

まず、この2つの違いを整理しましょう。標準治療と緩和ケアは、対立するものではなく、目的(延命・寛解を目指すか、QOL維持を目指すか)に応じた異なる選択肢です。

💊 闘う治療(標準治療)

  • 目的: 癌を小さくする、延命、寛解
  • 手段: 抗がん剤、手術、放射線
  • メリット: 寿命が延びる可能性がある
  • デメリット: 副作用、通院ストレス、入院

🍀 守る治療(緩和ケア)

  • 目的: 苦痛を取り除く、QOLの維持
  • 手段: ステロイド剤、鎮痛剤、自宅ケア
  • メリット: 自宅で過ごせる、苦痛が少ない
  • デメリット: 癌そのものは進行する

どちらも「愛猫のための立派な医療」です。

緩和ケアもまた「積極的な医療介入」である

私が提唱したいのは、緩和ケアもまた、愛猫の苦痛を取り除くために全力を尽くす「積極的な医療介入」であるという再定義です。

例えば、悪性リンパ腫の場合、抗がん剤を使わなくても、ステロイド剤を使用することで、一時的に腫瘍の炎症を抑え、食欲や元気を回復させることができます。これは「癌を治す」ためではなく、「今日のご飯を美味しく食べる」ための治療です。

「自然に任せたい」という思いから、痛み止めや吐き気止めさえも拒否してしまうと、愛猫は不必要な苦痛に耐えなければなりません。「癌とは闘わないが、痛みや苦しみとは徹底的に闘う」。 これが、積極的緩和ケアの真髄です。

自宅でできる「QOL(生活の質)」を高める3つのケア

では、具体的に自宅でどのようなケアができるのでしょうか。自宅ケアとQOL(生活の質)には密接な因果関係があり、住み慣れた環境を整えることが、高価な治療以上に猫のストレスを最小化し、QOLを高めます。

今日から実践できる3つのケアをご紹介します。

1. 環境ケア:頑張らせない部屋づくり

病気の猫にとって、トイレまでの数メートルは長距離走のような負担です。

  • トイレの増設: 寝床のすぐ近くにトイレを設置しましょう。段差の低いバリアフリータイプのトイレが理想的です。
  • 温度管理: 癌の猫は体温調節が苦手になります。湯たんぽやペットヒーターを活用し、常に体が冷えないようにしてください。
  • 隠れ場所の確保: 猫は体調が悪い時、暗くて狭い場所を好みます。安心して隠れられる場所(ダンボール箱など)を用意してあげましょう。

2. 食事ケア:食べることは生きる喜び

「食べないと死んでしまう」という焦りから、嫌がる猫の口に無理やりフードを押し込む「強制給餌」をしてしまう飼い主さんがいます。しかし、終末期において、食事は栄養補給以上に「楽しみ」であるべきです。

  • 好きなものを好きなだけ: 療法食にこだわる必要はありません。「ちゅ〜る」でも、カツオ節でも、その子が今食べたがるものをあげてください。
  • 温めて香りを立てる: フードを人肌程度に温めると香りが立ち、食欲を刺激します。
  • 無理強いしない勇気: 食べないことは、体が「もう消化吸収のエネルギーを使いたくない」と言っているサインかもしれません。その意思を尊重することも、大切なケアの一つです。

3. 心のケア:タッチケアと代替療法の位置づけ

ブログ『猫と癌と諸々と』でも触れられている「イネイト療法」などの代替療法について、関心を持つ方も多いでしょう。

獣医師としての見解は、イネイト療法などの代替療法とタッチケア(手当て)の関係性は、「手段と目的」として捉えるべきだということです。科学的な根拠が確立されていない療法であっても、飼い主さんが「これをすれば良くなるかもしれない」と信じて、穏やかな気持ちで愛猫に触れる時間を持つこと自体に、大きな意味があります。

▼ 猫が快適に過ごすための自宅環境チェックリスト
カテゴリ チェック項目 理由・効果
トイレ □ 寝床から半径2m以内にある
□ 入口の段差をなくしている
移動の負担を減らし、排泄の失敗を防ぐ
寝床 □ 飼い主の気配が感じる場所に設置
□ 柔らかく暖かい素材を使用
孤独感を和らげ、体温低下による免疫ダウンを防ぐ
食事 □ 皿の位置を高くしている
□ 複数の種類のフードを用意している
前かがみの姿勢による吐き戻しを防ぎ、選ぶ楽しみを与える
移動 □ 家具の配置を変えて動線を確保
□ 階段やソファにスロープを設置
転落事故を防ぎ、自力で動ける自信を維持させる

獣医師が答える「緩和ケア」のよくある質問 (FAQ)

最後に、緩和ケアを選択する際によくいただく質問にお答えします。

Q. ステロイドは副作用が心配ですが、使ったほうがいいですか?

A. 終末期においては、副作用のリスクよりもメリットが上回ることが多いです。
長期使用による副作用(免疫低下など)は確かに存在しますが、緩和ケアの段階では、それよりも「今の食欲不振やだるさを取り除くこと」が優先されます。ステロイドは「魔法の薬」と呼ばれるほど、一時的にQOLを劇的に改善する力があります。獣医師と相談しながら、上手に活用することをお勧めします。

Q. 最期は苦しみますか?

A. 適切な緩和ケアがあれば、多くの場合は眠るように旅立てます。
癌の末期=激痛、というイメージがあるかもしれませんが、猫は痛みを隠す動物です。呼吸が浅くなる、うずくまって動かないなどのサインを見逃さず、早めに鎮痛剤や酸素吸入を行えば、苦痛を最小限に抑えることができます。

Q. 痛がっているサインはどう見分ければいいですか?

A. 「いつもと違う行動」がサインです。
具体的には、以下のような行動が見られたら痛みがある可能性があります。

  • 暗い隅に隠れて出てこない
  • 触ろうとすると怒る、逃げる
  • トイレ以外の場所で粗相をする
  • 香箱座りが崩れ、前足に力が入っている
  • ゴロゴロと喉を鳴らし続ける(リラックスではなく、自分を落ち着かせるための行動の場合があります)

まとめ:あなたの笑顔が一番の薬です

愛猫にとって、抗がん剤よりも、点滴よりも効く薬。それは、大好きなあなたの笑顔と、優しい「手当て」です。

ブログ『猫と癌と諸々と』のmikaさんが示したように、標準治療を選ばないことは、決して愛猫を見捨てることではありません。それは、残された時間を病院の待合室ではなく、温かい自宅で過ごすという、愛に溢れた決断です。

どうか、ご自身の選択に自信を持ってください。「積極的緩和ケア」を通じて、愛猫との最期の時間が、悲しみだけでなく、穏やかで温かい思い出で満たされることを、心から願っています。

もし、かかりつけの先生に「治療しない」と言い出しにくい場合は、「緩和ケアを中心に、自宅で穏やかに過ごさせたい」と相談してみてください。それでも理解が得られない場合は、往診専門医や緩和ケアに理解のある病院へセカンドオピニオンを求めることも検討しましょう。


参考文献・出典

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