猫の血便「元気はある」なら様子見OK?緊急度判定と受診目安
朝の忙しい時間に、愛猫のトイレで血便を見つけてしまったら、誰だって心臓が止まりそうになりますよね。「まさか大きな病気?」「でも、本人はご飯も食べて元気に走り回っている…」
驚きましたよね。でも、まずは深呼吸をしてください。
結論からお伝えすると、猫に元気と食欲があり、便に赤い血(鮮血)が付着している程度であれば、その血便の多くは数時間の様子見が可能です。なぜなら、大腸からの出血は、猫の全身状態に影響を与えにくいからです。
しかし、絶対に「様子見」をしてはいけない危険なサインが一つだけあります。それを見逃すと、取り返しのつかないことになりかねません。
この記事では、出勤前の5分で「今日は会社に行っても大丈夫か」それとも「今すぐ休んで病院に行くべきか」を判断できるチェックリストを用意しました。まずはこれを確認して、今朝の行動を決めていきましょう。
【5分で判断】今すぐ病院?明日でいい?緊急度チェックリスト
まずは、目の前の猫ちゃんの状態と便の様子を、以下のリストに当てはめてみてください。医学的な緊急度に基づいて、今とるべき行動を「即受診(危険度MAX)」「今日中に受診予約(危険度中)」「様子見OK(経過観察)」の3つに分類しました。
🚨 危険度MAX:即受診(会社を休んででも病院へ)
以下の項目に一つでも当てはまる場合は、消化管の上部(胃や小腸)で大量に出血している、または全身状態が危険なサインです。会社を休んででも、今すぐ動物病院に連絡してください。
| 症状 | 危険性 |
|---|---|
| 便が「黒い」(タール便) | 胃や小腸など上部消化管からの出血。血液が消化されて黒変している状態。緊急性が高い。 |
| ぐったりしている、反応が鈍い | 重度の貧血や全身の異常が疑われる。 |
| 嘔吐を伴っている | 消化器系の重篤な疾患やウイルス感染の可能性。 |
| 生後6ヶ月未満の子猫である | 体力がなく、急激に脱水・重症化するリスクが高い。 |
⚠️ 危険度中:今日中に受診予約(早退・仕事帰りに受診)
命に関わる緊急事態ではない可能性が高いですが、脱水症状や激しい炎症が起きています。仕事帰りに受診するか、明日一番の予約を入れてください。
- 便は赤いが、形がないほどの泥状〜水様の下痢である
- 1日に3回以上トイレに行く(排便を繰り返す、しぶり)
- 元気はあるが、いつもより少し大人しい
✅ 様子見OK:帰宅後確認(出勤OK)
以下のすべてに当てはまる場合は、肛門に近い大腸付近での出血(鮮血便)の可能性が高く、全身状態への影響は少ないため、今日は出勤しても大丈夫です。スマホで写真を撮って、帰宅後にもう一度確認しましょう。
- 便の表面に「鮮やかな赤い血」が筋状に付いている、またはポタッと付いている
- 便の硬さは普通、または少し柔らかい程度
- 食欲旺盛で、おもちゃで遊ぶ元気がある
【アドバイス】
迷ったら「便の写真」と「猫の食事中の動画」を撮ってから出勤してください。獣医師が「元気の微妙な変化」を判断する上で、動画は非常に強力な情報になります。帰宅後の電話相談にも役立ち、安心材料になります。
なぜ「元気なのに血便」が出るの?考えられる3つの原因
「元気なのに血が出ている」という状況は不思議に思えますが、猫の体の構造や特定の病気の性質を知れば、その理由は明確になります。
1. 大腸(肛門付近)のトラブルだから
鮮血便(赤い血)は、肛門に近い大腸が出血源であることを意味します。
大腸は「水分の吸収」が主な役割で、栄養の吸収を行う小腸とは機能が異なります。そのため、大腸に炎症や傷があっても、栄養状態や体重にはすぐには影響しません。これが、大腸性の出血が元気や食欲の低下を伴わない医学的な理由です。人間でいう「切れ痔」で元気なのと似ています。
2. 若齢猫に多い「猫トリコモナス」などの寄生虫
特に1歳未満の猫や若齢猫の場合、「猫トリコモナス」という寄生虫が潜んでいる可能性があります。
この寄生虫は、ひどい下痢や血便を引き起こしますが、猫本人は痛がる様子もなく、食欲も落ちないのが特徴です。「元気な下痢・血便」が何週間も続く場合、この「元気な病気」が犯人であるケースが非常に多いです。自然治癒は難しいため、お薬での治療が必要です。
3. 食事の変更や誤食による腸への刺激
キャットフードを急に変えたり、普段食べないおやつを食べたりしただけでも、敏感な猫ちゃんは大腸炎を起こして血便を出します。また、おもちゃの破片などを飲み込み、それが排出される際に腸の粘膜を傷つけた場合も、一時的な鮮血便が見られます。
【アドバイス】
「最近ストレスがあったからかな?」と、ストレスを血便の主犯にするのはやめましょう。私の経験上、ストレス単独で鮮やかな血便が出ることは稀で、その裏には食事アレルギーや寄生虫といった「身体的な原因」が隠れていることがほとんどです。ストレスのせいにすると、本当の病気を見逃すリスクがあります。
「様子見」を決めたあなたへ。帰宅後までにすべき家庭ケア
チェックリストで「様子見OK」と判断し、これからお仕事に向かうあなたへ。留守中に猫ちゃんの体調が悪化しないよう、最低限これだけは守ってほしい家庭ケアをお伝えします。
食事は「いつも通り」でOK。ただしおやつは禁止
猫に食欲があるなら絶食の必要はありません。ただし、腸に負担をかけないよう、以下のルールを守ってください。
- フード: 普段食べ慣れているドライフードやウェットフードを与える。
- 量: 一気に食べさせず、小分けにするのが理想的。
- 禁止: ちゅ〜るなどのおやつや、新しい種類のフードは今日は控える。
部屋の温度とトイレ環境を整える
留守中に猫が寒さを感じると、消化機能が低下して下痢が悪化することがあります。室温は普段より少し暖かめに設定しましょう。
また、多頭飼いの場合は、感染症のリスクを考慮し、可能であれば血便が出た猫ちゃんと他の猫ちゃんのトイレや部屋を分けてから出勤するのがベストです。
帰宅後のチェックポイント
お仕事から帰ってきたら、まずは以下の点を確認してください。
- トイレの回数: 留守中に何度もトイレに行った形跡はないか?
- 便の状態: 朝よりも血の量が増えていないか?色が黒くなっていないか?
- 猫の居場所: いつもの場所で寝ているか?(押し入れの奥などに隠れている場合は、痛みがあるサインかもしれません)
いざ受診!診断を確実にする「便の持ち方」と「写真の撮り方」
様子見をしたけれど血便が続く場合、あるいは心配で受診を決めた場合、病院に何を持っていくかで診断の精度が劇的に変わります。「鮮明な写真」は実物の便と同じくらい強力な診断ツールです。
スマホ撮影:変色前の「鮮血」が最強の証拠
便に含まれる血液は、時間が経つと酸化して黒ずんでしまいます。病院に着く頃には色が変わり、獣医師が「鮮血かタール便か」を判断しにくくなることがあります。
だからこそ、発見直後の「赤い状態」をスマホで撮影することが重要です。以下の2パターンを撮影してください。
- 全体の写真: 便の量や形、トイレのどこに血がついているかが分かる写真。
- 接写(ズーム): 血の色(鮮やかさ)や、粘液が混じっているかが分かるアップの写真。
便の持参:乾燥させないのがコツ
寄生虫検査などを行うためには実物の便が必要です。
- 採取: 排便直後の便を、割り箸などでひとつまみ取ります。
- 保管: サランラップに包むか、ビニール袋に入れて密閉し、乾燥を防いでください。
- 持参: 半日以内にしたものを持参するのが理想です。時間が経ちすぎた便では、寄生虫が見つからないことがあります。
よくある質問 (FAQ)
最後に、診察室で飼い主さんからよくいただく質問にお答えします。
Q. 鮮血便と、危険な黒色便(タール便)の見分け方は?
A. 「赤ワイン」と「イカ墨や海苔の佃煮」でイメージしてください。
鮮血便は、赤ワインやケチャップのような「赤色」をしています。一方、危険なタール便は、イカ墨パスタや海苔の佃煮のような「ドロっとした黒色」で、独特の鉄錆のような臭いがします。黒い便が出たら、猫が元気でも緊急事態です。
Q. 多頭飼いなのですが、他の猫に移りますか?
A. 原因によりますが、隔離が安全です。
もし原因が「猫トリコモナス」や「ジアルジア」などの寄生虫、あるいはウイルス性の腸炎だった場合、トイレを介して他の猫に感染します。原因がはっきりするまでは、トイレと食器を分け、血便が出た猫の排泄物を処理した後は必ず手を洗ってください。
まとめ
愛猫の血便を見た時の動揺は、飼い主として当然の反応です。しかし、ここまで読んでくださったあなたは、もう「ただ怖い」というパニック状態からは脱しているはずです。
- 元気・食欲があり、鮮やかな赤い血なら、大腸性のトラブルの可能性が高く、緊急性は低い(様子見OK)。
- 便が黒い(タール便)、または猫がぐったりしているなら、即受診が必要。
- スマホでの「発見直後の撮影」が、後の診断を助ける最大の武器になる。
今日はまず、スマホで便の写真を撮ってから出勤し、お仕事に集中してください。そして帰宅後、猫ちゃんが「おかえり!」と元気に迎えてくれたら、ひとまず安心です。
もし帰宅して、猫ちゃんの元気がなくなっていたり、便の状態が悪化していたりしたら、迷わず夜間救急に電話をしてください。あなたと猫ちゃんの平穏な日常が、一日も早く戻ることを願っています。

